〜上顎拡大と“見た目の変化”を正しく理解する〜
「拡大装置を入れると顔が大きくなりますか?」
小児矯正のカウンセリングで、保護者の方からよくいただく質問です。
結論から言うと、
適切な診断のもとで行う上顎拡大で、顔が“不自然に大きくなる”ことは通常ありません。
ただし、「まったく変化がない」というわけでもありません。
ここを正しく理解することが大切です。
そもそも拡大装置とは?

拡大装置は、主に上顎の幅を広げるための装置です。
子どもの上顎には正中に「口蓋縫合」という成長線があり、成長期であればここを利用して横方向に拡大することが可能です。
目的は:
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歯が並ぶスペース確保
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上顎狭窄の改善
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交叉咬合の是正
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鼻腔容積の改善補助
あくまで機能改善が主目的です。
「顔が大きくなる」と感じる理由
では、なぜそのような不安が出るのでしょうか?
理由は大きく3つあります。
① 頬の横幅がわずかに広がる可能性
拡大装置(SPE)では、骨格的に上顎を広げるため、頬部の幅が数ミリ単位で変化することがあります。
しかしこれは“顔が大きくなる”というより、
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中顔面のバランスが整う
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陥没感が減る
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鼻翼基部がわずかに広がる
といった変化に近いものです。
成長期の変化の中に埋もれる程度であることがほとんどです。
② 歯列弓が広がることで印象が変わる
歯列が広がると笑ったときの歯の見え方が変わります。
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バッカルコリドー(口角横の黒い空間)が減る
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笑顔が横に広がる
これを「顔が横に広がった」と感じることがあります。
しかし審美的には、むしろ自然で健康的な印象になるケースが多いです。
③ SNS情報の影響
最近では「拡大で顔が大きくなった」という体験談が拡散されがちです。
しかし、
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もともとの骨格
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拡大量
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年齢
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診断の適切さ
によって結果は大きく異なります。
科学的には、適切な成長期拡大で著しい顔面肥大が起こるというエビデンスは限定的です。
成長期かどうかが最大のポイント
最も重要なのは「年齢と成長段階」です。
成長期であれば、縫合部を利用した自然な骨格拡大が可能です。
一方、成長終了後では縫合が癒合しているため、
通常の拡大では**歯槽性拡大(歯だけが外側へ傾く)**になりやすくなります。
成人で骨格的拡大が必要な場合は、
外科的補助を伴う方法が検討されることがあります。
重度の骨格性問題については、
日本口腔外科学会 のガイドラインでも外科的治療の適応が示されています。
過度な拡大のリスク
適切な診断がなければ、次のリスクがあります。
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歯肉退縮
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骨の支持不足
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後戻り
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咬合不安定
拡大は「広げれば広げるほど良い」わけではありません。
顔貌・歯槽骨幅・軟組織バランスを総合的に評価する必要があります。
結論:顔は“必要な分だけ”変わる
拡大装置で顔が極端に大きくなることは通常ありません。
しかし、
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上顎が狭い状態から適正幅へ
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中顔面がバランス良くなる
ことで、印象が変わることはあります。
それは「大きくなる」というより、
“本来あるべき成長を促す”変化に近いものです。
大切なのは、
✔ 成長段階の正確な診断
✔ 適切な拡大量の設定
✔ 長期安定を見据えた計画
不安がある場合は、拡大前に顔貌変化の予測について十分な説明を受けることをおすすめします。
参考文献
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Contemporary Orthodontics. Proffit WR, Fields HW, Sarver DM.
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Haas AJ. Rapid expansion of the maxillary dental arch and nasal cavity.
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日本口腔外科学会. 顎変形症診療ガイドライン.