「気づくといつも右側ばかりで噛んでいる」「左側では噛みにくいので、自然と片方だけ使ってしまう」
このような片側だけで噛む癖(偏側咀嚼)は多くの方に見られる習慣です。
一見すると些細な癖に思えるかもしれませんが、長期間続くと歯や顎、筋肉に偏った負担がかかり、歯並びや噛み合わせに影響を与える可能性があります。
特に矯正治療中や治療後は、歯が動いている時期だからこそ噛み癖の影響を受けやすく、治療結果や保定にも関わることがあります。
今回は、片方で噛む癖が歯並びへ与える影響や原因、改善方法について詳しく解説します。
片方で噛む「噛み癖」とは?

噛み癖とは、食事の際に左右どちらか一方の歯ばかりで噛む習慣のことです。
本来、食事では左右の歯をバランスよく使うことで、歯や顎、筋肉に均等な力がかかります。しかし、無意識のうちに片側だけを使い続けると、左右のバランスが崩れ、さまざまな影響が現れることがあります。
自分では気付きにくい癖ですが、家族から「いつも右側だけで噛んでいるね」と指摘されて初めて気付く方も少なくありません。
片方で噛むようになる原因
歯並びや噛み合わせの問題
噛み合わせが悪い部分があると、自然と噛みやすい側だけを使うようになります。
例えば、
- 奥歯がしっかり噛み合っていない
- 交叉咬合(クロスバイト)がある
- 開咬で前歯が噛み合わない
などの場合には、無意識に噛みやすい側へ偏ることがあります。
むし歯や歯周病による痛み
歯がしみたり痛みがあったりすると、その側を避けて反対側だけで噛むようになります。
治療後も癖として残ってしまうケースもあります。
詰め物や被せ物の違和感
新しく詰め物や被せ物を入れた後、高さが合っていない場合や違和感がある場合も片側で噛みやすくなります。
違和感が続く場合は我慢せず歯科医院で調整を受けましょう。
顎関節の痛み
顎関節症などで片側の顎が痛む場合も、自然と反対側だけで噛む習慣がつきます。
片方で噛む癖が歯並びへ与える影響
歯にかかる力が偏る
歯は適度な力には耐えられますが、長期間同じ側だけに負担がかかると、一部の歯へ過剰な咬合力が集中します。
その結果、
- 歯がすり減る
- 歯にひびが入る
- 詰め物や被せ物が外れやすくなる
といったトラブルにつながることがあります。
歯が移動しやすくなる可能性
歯には噛む力だけでなく、唇や頬、舌からの力も加わっています。
片側だけへ継続的に強い力がかかることで、長い年月をかけて歯の位置や噛み合わせに影響する可能性があります。
ただし、片側で噛むことだけが歯並びを悪くする原因ではありません。歯並びは遺伝的要因や骨格、舌癖、口呼吸、生活習慣など複数の要因が関与しており、噛み癖もその一つと考えられています。
顔の筋肉のバランスが崩れる
食事のたびに同じ側ばかり使うことで、咬筋や側頭筋などの咀嚼筋の発達に左右差が生じることがあります。
その結果、
- エラの張りが左右で違う
- フェイスラインが非対称に見える
- 顔のバランスが気になる
といった見た目の変化につながる場合があります。
顎関節へ負担がかかる
片側だけで噛み続けると顎関節へも偏った力が加わります。
これにより、
- 顎が疲れる
- 口を開けると音が鳴る
- 顎が痛い
- 大きく口を開けにくい
など、顎関節症の症状が現れることがあります。
矯正治療中は噛み癖に注意
矯正治療中は歯が少しずつ動いているため、左右均等に噛むことが大切です。
特にマウスピース矯正では、
- チューイーを片側だけで噛む
- 食事中に片側だけを使う
などの習慣が続くと、アライナーの適合や咬み合わせの安定に影響する可能性があります。
また、ワイヤー矯正でも片側だけに強い咬合力が加わることで、装置の変形やブラケットの脱離につながることがあります。
気になる違和感がある場合は、無理に片側だけで噛まず、担当医へ相談しましょう。
噛み癖を改善する方法

左右均等に噛むことを意識する
まずは「どちらで噛んでいるか」を意識することが第一歩です。
一口ごとに左右交互に噛むよう心掛けるだけでも改善につながります。
最初は違和感がありますが、続けることで徐々に習慣化できます。
原因となる歯の問題を治療する
むし歯や歯周病、詰め物の高さ、噛み合わせの異常が原因の場合は、それらを治療することが根本的な改善につながります。
噛みにくさを我慢したままでは、噛み癖は改善しません。
矯正治療で噛み合わせを整える
歯並びや噛み合わせが原因の場合は、矯正治療によって左右均等に噛める環境を整えることができます。
噛み合わせが改善すると、食事のしやすさだけでなく、顎への負担軽減も期待できます。
定期的に噛み合わせをチェックする
自分では左右均等に噛んでいるつもりでも、実際には偏っていることがあります。
定期検診では噛み合わせや歯のすり減り具合も確認してもらい、必要に応じて早めに対応することが大切です。
まとめ
片方で噛む癖は、一度や二度で歯並びが大きく変化するものではありません。しかし、何年も続くことで歯や顎、筋肉へ偏った負担がかかり、歯並びや噛み合わせ、顎関節へ影響する可能性があります。
特に、噛みにくさや痛みが原因で片側ばかり使っている場合は、何らかの口腔内トラブルが隠れていることも少なくありません。
矯正治療中・治療後はもちろん、普段から左右均等に噛むことを意識し、気になる症状があれば早めに歯科医院へ相談しましょう。歯並びだけでなく、お口全体の健康を長く維持することにつながります。
参考文献
- 日本矯正歯科学会. 矯正歯科治療に関する患者向け情報・ガイドライン
- 日本顎関節学会. 顎関節症に関する診療ガイドライン
- 日本補綴歯科学会. 咬合・咀嚼機能に関する診療指針
- Contemporary Orthodontics. William R. Proffit.