「口を開けるとカクカク音がする」「朝起きるとあごがだるい」「大きく口を開けにくい」――こうした症状で知られる顎関節症。歯並びが気になって矯正治療を検討している方の中には、「矯正をすると顎関節症は治るの?」「逆に悪化しない?」と不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
今回は、顎関節症と矯正治療の関係について、最新の考え方を踏まえながらわかりやすく解説します。
顎関節症とは?
顎関節症とは、耳の前にある「顎関節」やその周囲の筋肉にトラブルが起こることで、以下のような症状が現れる状態の総称です。
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口を開けると音がする(クリック音)
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口が大きく開かない(開口障害)
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あごやこめかみが痛い
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食事や会話であごが疲れやすい
原因はひとつではなく、かみ合わせの問題、歯ぎしり・食いしばり、ストレス、姿勢の悪さ、外傷など、複数の要因が重なって発症すると考えられています。
顎関節症の原因は「かみ合わせ」だけ?
かつては「かみ合わせが悪いから顎関節症になる」という考え方が強く、矯正治療によってかみ合わせを整えれば治る、と言われることもありました。
しかし現在では、顎関節症は多因子性疾患とされており、かみ合わせだけが直接の原因とは言えない、というのが一般的な見解です。
実際、歯並びが多少悪くても顎関節症にならない人もいれば、歯並びがきれいでも症状が出る人もいます。つまり、矯正治療=顎関節症の治療、とは単純に言い切れないのです。
矯正治療で顎関節症は治るの?
結論から言うと、矯正治療そのものが顎関節症の直接的な治療法とは言えません。
ただし、以下のようなケースでは、結果的に症状が軽減することがあります。
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かみ合わせの大きなズレが改善された
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特定の歯に集中していた負担が分散された
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下あごの位置が安定した
このように、咬合バランスが整うことで筋肉や関節への負担が減り、症状が和らぐ可能性はあります。
しかしこれはあくまで「結果として良くなることがある」というものであり、顎関節症を治す目的だけで矯正を行うのは慎重な判断が必要です。
矯正で顎関節症が悪化することはある?
では逆に、矯正治療によって顎関節症が悪化することはあるのでしょうか。
可能性としては「ゼロではありません」が、多くの場合は一時的なものです。
矯正中は歯が動き、かみ合わせが変化していきます。その過程で、
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一時的にかみづらくなる
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あごの筋肉が疲れやすくなる
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違和感が出る
といった症状が出ることがあります。
しかし、適切な診断と治療計画のもとで進められていれば、重度の顎関節症を新たに引き起こすリスクは高くないと考えられています。
重要なのは、もともと顎関節に症状がある場合、矯正前にきちんと評価を行うことです。
顎関節症がある人は矯正できない?
顎関節症があるからといって、必ずしも矯正ができないわけではありません。
ただし、以下のような対応が必要になることがあります。
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まず顎関節症の症状を安定させる
痛みが強い場合は、スプリント(マウスピース)治療や生活習慣の改善を優先します。 -
顎関節の状態を詳しく検査する
レントゲンやCT、場合によってはMRIなどで関節の状態を確認します。 -
無理のない治療計画を立てる
あごの位置を大きく変える治療は慎重に検討します。
特に痛みが強い急性期には、すぐに矯正を始めるのではなく、まず炎症や筋緊張を落ち着かせることが大切です。
矯正治療を検討する際のポイント

顎関節症が気になる方が矯正を検討する場合、次のポイントを意識しましょう。
① 顎関節の診査をしっかり行う歯科医院を選ぶ
かみ合わせだけでなく、顎の動きや筋肉の状態まで評価してくれる医院を選びましょう。
② 「矯正すれば必ず治る」と断言する説明には注意
顎関節症は複雑な病態です。過度に単純化した説明には慎重になりましょう。
③ 自分の症状の原因を多角的に考える
食いしばり、姿勢、ストレス、睡眠なども大きく関係します。
大切なのは「総合的な視点」
顎関節症と矯正治療の関係は、「良くなることもあれば、直接関係しないこともある」というのが正確なところです。
矯正治療は歯並びやかみ合わせを整える優れた方法ですが、顎関節症の特効薬ではありません。一方で、適切な診断と計画のもとで行えば、顎関節に悪影響を与える可能性は高くないとされています。
重要なのは、
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今の顎関節の状態
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症状の程度
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生活習慣や癖
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治療の目的
これらを総合的に評価し、無理のない治療方針を立てることです。
まとめ
顎関節症と矯正治療の関係について、ポイントを整理すると以下の通りです。
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顎関節症はかみ合わせだけが原因ではない
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矯正治療が直接の治療法とは言えない
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結果的に症状が改善することはある
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適切な診断があれば悪化のリスクは高くない
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まずは顎関節の状態を正確に把握することが重要
もし顎の違和感がある場合は、矯正相談の際に必ずその症状を伝えましょう。歯並びだけでなく、顎の健康も含めてトータルで考えることが、後悔しない治療につながります。
矯正を「見た目の改善」だけでなく、「機能の安定」まで見据えた選択にすることが、将来の安心につながるのです。
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日本顎関節学会. 『顎関節症診療ガイドライン』一般社団法人日本顎関節学会.
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日本顎関節学会. 「顎関節症とは」一般向け解説ページ.
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日本矯正歯科学会. 「矯正歯科治療と顎関節症に関する見解」.
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Okeson JP. Management of Temporomandibular Disorders and Occlusion. 8th ed. Elsevier; 2020.
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Greene CS. The etiology of temporomandibular disorders: implications for treatment. J Orofac Pain.
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National Institute of Dental and Craniofacial Research (NIDCR). “Temporomandibular Joint Disorders (TMJ & TMD).”