「もう大人なのに乳歯が残っていると言われた」
「乳歯があるけれど歯列矯正はできるの?」
「将来的に抜けてしまわないか心配」
このようなお悩みを抱えて来院される患者さんは少なくありません。
実は、大人になっても乳歯が残っていることは決して珍しいことではなく、適切な診査・診断を行えば矯正治療を受けられるケースは多くあります。ただし、乳歯が残っている理由や永久歯の状態によって治療方針は大きく異なるため、一般的な矯正治療よりも慎重な診断が必要です。
今回は、大人になっても乳歯が残る原因や矯正治療の方法、注意点について詳しく解説します。
大人になっても乳歯が残る原因とは?

通常、乳歯は6~12歳頃に永久歯へ生え替わります。しかし、20代、30代、40代になっても乳歯が残っている方もいます。
主な原因は次のとおりです。
① 永久歯が生まれつき存在しない(先天性欠如)
最も多い原因が永久歯の先天性欠如です。
永久歯が作られないため、乳歯を押し出す力がなく、乳歯がそのまま残ります。
特に多い部位は
- 上下の第二小臼歯
- 上の側切歯
- 下の前歯
などです。
乳歯の根は少しずつ吸収されることがありますが、永久歯がない場合は長期間機能することもあります。
② 永久歯が埋まっている(埋伏歯)
永久歯は存在していても、顎の骨の中で埋まったまま生えてこないケースがあります。
原因には
- 生えるスペース不足
- 歯の向きの異常
- 過剰歯
- 骨との位置関係
などがあります。
この場合はCT検査などで位置を確認し、矯正治療によって永久歯を引っ張り出せる場合があります。
③ 乳歯の癒着(アンキローシス)
乳歯が顎の骨と癒着してしまうことがあります。
この場合は自然に抜けることが難しく、周囲の歯並びにも影響を及ぼす可能性があります。
大人でも乳歯があるまま矯正治療はできる?
結論から言うと、
多くの場合、矯正治療は可能です。
ただし、まず重要なのは
- 乳歯がどれくらい健康なのか
- 永久歯が存在するのか
- 根の長さ
- 噛み合わせ
- 骨の状態
を詳しく調べることです。
レントゲンや歯科用CTを用いて総合的に診断し、最適な治療計画を立てます。
乳歯を残して矯正するケース
乳歯の状態が良好で、
- 虫歯がない
- 根が十分残っている
- 歯周病がない
- 噛み合わせに問題が少ない
場合には、乳歯を保存しながら矯正治療を行うことがあります。
特に永久歯が欠如している場合には、乳歯をできるだけ長く使うことが患者さんにとってメリットになることがあります。
乳歯を抜歯して矯正するケース
一方で、
- 大きな虫歯がある
- 根が短くなっている
- グラグラしている
- 将来的な保存が難しい
場合は抜歯を選択することがあります。
抜歯後は
- 矯正で隙間を閉じる
- インプラント治療
- ブリッジ
- 義歯
などを組み合わせて治療計画を立てます。
年齢や噛み合わせ、見た目などを考慮して最適な方法を選択します。
矯正治療前に必ず確認したいポイント
CT検査
埋伏歯の位置や骨の厚みを詳しく確認できます。
歯根の状態
乳歯の根がどの程度残っているかを評価します。
噛み合わせ
乳歯だけでなく、全体のバランスを確認します。
将来的な予後
今後10年、20年先まで見据えた治療計画を立てることが重要です。
大人の乳歯はいつまで使える?
「乳歯だからすぐ抜ける」と思われがちですが、実際には何十年も使えることがあります。
一方で、
- 根の吸収
- 虫歯
- 歯周病
- 強い噛み合わせ
などによって急に抜歯が必要になることもあります。
そのため、定期的なメンテナンスが非常に重要です。
矯正治療中に乳歯が抜けることはある?
矯正治療中に乳歯の寿命が尽きるケースもあります。
そのため矯正医は、
「もし途中で抜歯になった場合」
まで想定した治療計画を立てています。
途中で乳歯を失った場合でも、
- 矯正でスペースを閉じる
- インプラントへ移行する
- 補綴治療へ変更する
など柔軟に対応できるケースがほとんどです。
乳歯がある方の矯正治療で重要なこと
乳歯が残っている患者さんでは、矯正単独ではなく
- 一般歯科
- 補綴治療
- インプラント
- 歯周病治療
との連携が重要になります。
一人ひとりの将来まで見据えた包括的な治療計画を立てることで、長期的に安定した噛み合わせを目指すことができます。
まとめ
大人になっても乳歯が残っているからといって、矯正治療を諦める必要はありません。
乳歯が残る原因はさまざまであり、永久歯の有無や乳歯の状態によって治療方法は異なります。
そのため、
- レントゲンやCTによる精密検査
- 正確な診断
- 将来を見据えた治療計画
が非常に重要です。
「乳歯があるから矯正できない」と自己判断せず、まずは矯正歯科で相談してみることをおすすめします。適切な診断によって、乳歯を活かした治療や、より良い噛み合わせを目指した治療の選択肢が見つかる可能性があります。
参考文献
- Patel NJ, et al. Restorative dentistry clinical decision-making for hypodontia: retained primary molars. British Dental Journal. 2023.
- Miller TE. Orthodontic and restorative procedures for retained deciduous teeth in the adult. Journal of Prosthetic Dentistry. 1995.
- Melsen B, Luzi C. Adult Orthodontics, 2nd Edition. Wiley Blackwell. 2022.
- Johnston CD, Littlewood SJ. Retention in Orthodontics. British Dental Journal. 2015.
